純粋基礎研究 vs 目的基礎研究 – 応用目的の有無による基礎研究の種別的分類

1.応用的目的・実際的目的の有無による純粋研究の区分-「純粋基礎研究」および「目的基礎」といった概念の形成史
(1)J. S. Huxley (1934) Scientific Research and Social Needs, London: Watts and Co. - 「実際的目的を意識的には持ってはいない」pure research としてのbackground research vs 「何らかの長期的な実際的目的を持つ」pure research としてのbasic research
Huxley (1934)p.253は、研究を「実践からの距離」(different degrees of remove from practice)を基準として、 background、basic、 ad hoc 、 developmentという4種類に分類している。最初の二つが純粋研究(pure research)に属するもので、後の二つが
応用研究(applied research)に属するものである。
 background researchは、原子物理学や実験発生学(experimental embryology)など「実際的目的を意識的には持ってはいない」(with no practical objective consciously in view)研究である。
basic research は、土壌学(soil science)、気象学(meteorology)、動物育種学(animal breeding)など「まったく基本的な研究ではあるが、何らかの長期的な実際的目的を持つ」( “quite fundamental, but has some distant practical objective)研究である。
Huxley (1934)p.253では「それら二つのカテゴリーが純粋科学(pure science)と通常呼ばれているものを構成している」(Those two categories make up what is usually called “pure science”)とされている。
なお ad hoc researchは、発光を目的とする放電管研究、マラリア撲滅を目的とする蚊に関する研究など「直接的目的」(immediate objective)を持つ研究である。
development  researchは、産業においてpilot reseachとも呼ばれているもので、「実験室での発見を商業的規模での量産へと変えるのに必要な研究」(the work needed to translate laboratory findings into full-scale commercial practice)である。
(2) B.Godin – oriented research
Godin(2009)pp.22-23は、自らのoriented research概念は、J. S. Huxley (1934) Scientific Research and Social Needs, London: Watts and Co., p.253における研究分類(background, basic, ad hoc and development)に由来する、としている。
 
2.「基礎研究」概念関係資料
(1) 欧文著作
 
(2) 日本語関連著作・論文
日本労務研究会(1964)「企業の研究活動に関する調査結果の概況」『労務研究』(日本労務研究会)17(6) 1964.07, pp.43-49
日本経営工学会編(1975)『管理工学便覧』丸善、p.839
Stokes(1997) Pasteur’s Quadrant p.35の図の翻訳がp.3に掲載されているが、そこでは「基本的理解の探求」という意味のquest for fundamental understandingという語句が、「根本原理の追求」というように少し強く意訳されている。
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3.『科学技術白書』における純粋基礎研究 vs 目的基礎研究
(1)『科学技術白書』昭和39年版
『科学技術白書』昭和39年版の第3章「民間企業の研究活動」の3「企業の基礎研究」の2「基礎研究の重点」の箇所では、科学技術庁「企業の研究活動に関する調査」(昭和38年)からの引用があり、「純粋基礎研究」と「目的基礎研究」という区分に基づいて、民間企業における基礎研究の重点がどちらにあるかを調査した結果が紹介されている。

純粋基礎研究=「どんな応用ができるかわからないが新しい現象や知識の探究」
目的基礎研究=「特定の目的に役立てるため現在不明な点の穴埋めをする研究」

全体としては、「目的基礎研究」に重点を置いている会社が63%、「純粋基礎研究)に重点を置いている会社が9%、両方を同程度に行なつている会社が28%という結果になっている。「第3-6表 基礎研究の実施状況およびその重点」(下記の図)に資本金別、業種別の詳しい調査結果のまとめがある。

『科学技術白書』昭和39年版,第3章,表 第III-6
 
また,基礎研究を純粋基礎研究と目的基礎研究に分けると,わが国の民間企業等で行なわれている基礎研究の92%が目的基礎研究に属している。しかし,諸外国と比較するとわが国の「会社等」では基礎研究,応用研究のウエイトが大きく,開発研究のウエイトは小さい( 第1‐22表 参照)。・・・一般に,その国の研究費の総額が少ないほどそのなかに占める基礎研究費のウエイトが大きくなる傾向にあり,これを図示すると 第1‐22図 にみられるように,各国の全研究費に占める基礎研究費の割合は一つの傾向線上にあるが,日本の場合だけは特異な存在となつており,わが国においては,基礎研究費の比重が著しく大きい。
 
『科学技術白書』昭和59年版の当該箇所では下記の注のように、「基礎研究」と「応用研究」の区別、「純粋基礎研究」と「目的基礎研究」の区別がなされていることを紹介した後で、「新材料創出という技術的課題を克服するため,物質に関する新しい知識を探求するような基礎的な研究が推進されつつある」とか、病気の発生メカニズムや人体の構造に関する研究では「純粋な学問的関心」と治療的関心の共在があることなどを挙げて研究現場では基礎研究と応用研究の区別が難しくなってきているとか、素粒子論のような基礎研究が長期的には原子力など応用につながるなどいったことなどを根拠としながら、「基礎的」と「応用目的」を対立的に捉えるべきではない、と主張されている。

注)米国では,「Basic Research」,「Applied Research」,「Development」という一般的な区分の他に,米国国防省関係では「Research」,「Exploratory Development」,「Advanced Development」,「Engineering Development」,「operational System Development」の区分が用いられている。また,西ドイツでは基礎研究と応用・開発研究の2区分が統計上用いられている。我が国でも昭和42年度から昭和49年度までの間,「純粋基礎研究」,「目的基礎研究」,「応用研究」及び「開発研究」の4区分が総務庁(当時総理府)の「科学技術研究調査報告」で用いられていた。

この定義は,OECD諸国の研究開発や統計の専門家によって,研究開発の実態と統計作成の容易さ等を総合的に調和させて作成されたものである。

[出典]
 
4.企業における「基礎研究」論
著者の所属は、科学技術庁 科学技術政策研究所 第1調査研究グループ。
本報告書は、日立製作所基礎研究所長、味の素株式会社中央研究所基礎研究所長、東芝常務取締役総合研究所長、三菱重工業株式会社常務取締役技術本部長、ソニー株式会社R&D戦略グループ本部長、新日本製鐵株式会社取締役中央研究本部副本部長、石川島播磨重工業株式会社理事技術本部副部長・技術研究所長、三井東圧化学株式会社取締役総合研究所長、花王株式会社花王基礎科学研究所長理事、日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所長、日本電気株式会社基礎研究所長など「主だった民間企業における基礎研究の運営や技術戦略企画立案の要職にある方々をお招きし、我が国の主要企業における「基礎研究」の実態とその考え方、あるいは管理運営上の諸問題の解明を目的として開催した」セミナーでの講演、および、そこでの科学技術政策研究所研究員及び科学技術庁の科学技術政策担当行政官などとの間の討論により構成されている
 
 

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