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Schumpeterにおけるイノベーションに関する二つの不連続性-技術的不連続性と遂行者的不連続性
Schumpeterは、新結合における不連続性に関して、下記のように技術の不連続性と担い手の不連続性という二つを区別すべきだとした上で,旧製品に関わっていた企業・人間が新結合の遂行者になることは原則としてない,と述べている。
「新結合の遂行者が、この新結合によって凌駕排除される旧い慣行的結合において商品の生産過程や商業過程を支配していた人々と同一人である場合もありうえるけれども、しかしそれは事物の本質に属するものではない。むしろ、新結合、とくにそれを具現する企業や生産工場などは、その観念からいってもまた原則からいっても、単に旧いものにとって代わるのではなく、一応これと並んで現れるのである。なぜなら旧いものは概して自分自身の中から新しい大躍進をおこなう力をもたないからである。先に述べた例についていえば、鉄道(Eisenbahnen)を建設したものは一般に駅馬車の持ち主(Postmeister)ではなかったのである。この事情は単にわれわれの基本過程を特徴づけている非連続性に対してとくに明らかな光を投じ、前述の第一種の非連続性[すなわち、軌道の変更]のほかに、いわば第二種の非連続性[すなわち発展担当者の変更]をつくりだす出すばかりではなく、さらにその付随現象の経過をも支配するのである。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed., p.101[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.153]
カテゴリー: Schumpeter, イノベーション論
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Schumpeterの「革新」的経済活動における「生産」の主導性-「生産」主導的イノベーション論
シュンペーターは、下記のように、シュムペーターは欲求充足が生産活動の基準であるとしつつも、「通常」的経済活動と異なり、「革新」的経済活動では生産の側に主導権があり、生産の側が消費者に新しい欲望(neue Bedürfnisse)を教え込む、としている。すなわち、「通常」的経済活動では「消費者の欲求の充足」→「生産」というように欲求充足が生産活動を規定=主導しているのに対して,「革新」的経済活動では「生産」→「消費者における新しい欲求の生成」というように生産機構が規定=主導している、としている。供給と需要が互いに独立した要因である場合には通常の意味における均衡状態が成立するが、生産が欲求充足を主導する結果としてそうした均衡状態が成立しないことになう。
「経済的観察は、欲求充足(Bedarfsbefriedigung)があらゆる生産活動の基準であり、そのときどきにい与えられる経済状態はこの側面から理解されなければならないという根本事実から出発するものであるとしても、経済における革新は、新しい欲望(Bedürfnisse)がまず消費者の間に自発的に現れ、その圧力によって生産機構(Produktionsapparat)の方向が変えられるというふうに行われるのではなく-われわれはこのような因果関係の出現を否定するものではないが、ただそれはわれわれになんら問題を提起するものではない-、むしろ新しい欲望が生産の側から消費者に教え込まれ、したがってイニシアティヴは生産の側(Produktionsseite)にあるというふうにおこなわれるのがつねである。これが慣行の軌道における循環の完了と新しい事態の成立との間の多くの相違の一つである。すなわち、供給と需要とをたがいに原理的に独立した要因として対立させることは、第一の場合には許されるが、第二の場合には許されない。この結果として、第一の場合の意味における均衡状態は第二の場合にはありえないことになる。」
Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed., pp.99-100[邦訳 (塩野谷祐一他訳,1977)『経済発展の理論』岩波文庫、上巻、pp.181-182,(1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.151)
Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed., pp.99-100[邦訳 (塩野谷祐一他訳,1977)『経済発展の理論』岩波文庫、上巻、pp.181-182,(1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.151)
すなわち、同書(Schumpeter,1912,pp.16-17、岩波文庫,pp.45-46)の第1章「一定条件に制約された経済の循環」における下記の文章は、通常の経済的活動について論じているものであることに注意する必要がある。
事物の他の側面、すなわちわれわれがその「自然科学的」および社会的側面よりもはるかに深く生産の内面に立ち入ることのできる側面は、個々の生産の具体的目的である。経済する人間が生産に当って追及する目的、およびそもそもなぜ生産がおこなわれるかを説明する目的は、明らかにその刻印を生産の方法と大きさの上に残している。与えられた手段と客観的必然性の範囲内で、この目的が生産の存在および「なにを」「いかにして」生産するかを決定しているということを証明するためには、明らかになんの議論 も必要ではない。この目的は有用なもの(Brauchbarkeit)の創出(Erzeugung )、消費対象(Konsumtionsgegenständen)の創出にはかならない。交換のない経済においては、その経済内の消費にとって有用なものだけが問題となりうる。この場合においては、個々の経済主体は生産したものを消費するために、すなわちその欲望(Bedürfnisse )を充足する(befriedigen)ために生産する。したがって、明らかにこれらの欲望の種類と強度が実際の可能性の範囲内において生産を決定する。欲望は経済主体の経済行動にとって根拠であると同時に準則である。それは経済行動の原動力を表わすのである。与えられた外的条件と経済主体の欲望とは経済過程を決定する二つの要素であり、経済過程の結果を生み出すさいに協働する二つの要素である。すなわち、生産は欲望にしたがい、前者はいわば後者によって引張られている。まったく同じことが、必要な修正のもとで流通経済にもあてはまる。」
カテゴリー: Schumpeter, イノベーション論
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Schumpeterにおける「連続的な新結合」vs「非連続的な新結合」 -既存の経済循環内における連続的変化 vs 既存の経済循環を破壊する非連続的変化
Schumpeterは、「生産」=「モノや力の結合の変更」という考え方に基づき、イノベーション概念を「新結合」という位相で捉えているのであるが、注意すべきことが一つある。すなわち、すべての新結合がイノベーションであるわけではない、「モノや力の結合の仕方の変更」一般がイノベーションをもたらすわけではない、ということである。シュムペーターは、モノや力の結合の仕方の変更に関して連続的=漸次的(kontinuierlich)な変化と、既存の経済循環プロセスを打ち壊し新しい経済循環プロセスを打ち立てるような非連続的(diskontinuierlich)な変化に2種類があるとした上で、記述上の便宜的理由から前者を原則として無視し、後者のみを「新結合」として挙げていることに注意する必要がある。
Schumpeterが自らの考察の対象として重要だと考えているのは、「既存の経済循環プロセスの中における、小さな歩み(kleine Schritte)を積み重ねる連続的=漸次的な変化」ではなく、「既存の経済循環プロセスを打ち壊し新しい経済循環プロセスを打ち立てるような非連続的な変化」の方であることに注意する必要がある。
Schumpeterが自らの考察の対象として重要だと考えているのは、「既存の経済循環プロセスの中における、小さな歩み(kleine Schritte)を積み重ねる連続的=漸次的な変化」ではなく、「既存の経済循環プロセスを打ち壊し新しい経済循環プロセスを打ち立てるような非連続的な変化」の方であることに注意する必要がある。
Soweit die neue Kombination von der alten aus mit der Zeit durch kleine Schritte, kontinuierlich anpassend, erreicht werden kann, liegt gewiß Veränderung, eventuell Wachstum vor, aber weder ein neues der Gleichgewichtsbetrachtung entrücktes Phänomen, noch Entwicklung in unserm Sinn. Soweit das nicht der Fall ist, sondern die neue Kombination nur diskontinuierlich auftreten kann oder tatsächlich auftritt, entstehen die der letztern charakteristischen Erscheinungen. Aus Gründen darstellerischer Zweckmäßigkeit meinen wir fortan nur diesen Fall, wenn wir von neuen Kombinationen von Produktionsmitteln sprechen. Form und Inhalt der Entwicklung in unserem Sinn ist dann gegeben durch die Definition: Durchsetzung neuer Kombinationen.
新しい組み合わせが、古い組み合わせから時間をかけて小さなステップを踏んで到達し、継続的に適応していくことができる場合においても、確かに変化(Veränderung)があり、成長(Wachstum)もありうる。しかしそれは、均衡[論]の見方では捉えられない新現象(ein neues der Gleichgewichtsbetrachtung entrücktes Phänomen)でもなければ、[古い経済循環プロセスを破壊し新しい経済循環プロセスを打ち立てる、というような]われわれの意味での発展(Entwicklung in unserm Sinn)でもない。そうではなく、新しい組み合わせが非連続的にしか起こらない場合、また実際に非連続的に起こる場合に限り、発展に特有な現象が成立する。記述の便宜上の理由から(Aus Gründen darstellerischer Zweckmäßigkeit)、以下において生産手段の新結合について語るときには、もっぱらこのような場合のみを意味することにする。
[Schumpeter(1926)p.100, (1977訳)p.182,(1980改訳)p.152]
Schumpeterにおける連続的変化と不連続的変化の区別-不連続的変化の例としての、駅馬車から汽車への変化
「第1章の理論は経済生活を年々歳々本質的に同一軌道にある「循環」の観点から描写したものである-これは動物的有機体の血液循環に比較することができよう。ところでこの経済循環および軌道そのもの - 単にその個々の局面だけでなく-は変化する。そして血液循環との対比はここで用をなさなくなる。なぜなら、血液循環も有機体の成長や衰退の過程において変化するけれども、それはただ連続的に、すなわち、与えられるいかなる微少量よりもさらに微少な刻みをもて、しかも常に同じ枠の中で変化するに過ぎないからである。経済という生命もまた同様な変化を経験するが、しかしさらにそれ以外にたとえば駅馬車から汽車への変化のように、純粋に経済的-「体系内部的」-なものでありながら、連続的にはおこなわれず。その枠や慣行の軌道そのものを変更し、「循環」からは理解できないような他の種類の変動を経験する。このような種類の変動およびその結果として生ずる現象こそわれわれの問題設定の対象となるものである。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.,pp.93-94[邦訳 『経済発展の理論』岩波文庫上巻、p.171,(1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、pp.143-144、強調は引用者]
「第1章の理論は経済生活を均衡状態に向かう経済の傾向という観点から描写したものであり、この傾向は財の価格と数量とを決定する手段をわれわれに与え、そのときどきに存在する予見への適応として示される。・・・理念上の経済的均衡状態の内容は、与件が変化するために、まさに変化するのである。そして理論はこの与件の変化に対して無能力ではない。・・・しかしこれらの方法も、もし経済生活そのものがそれ自身の与件を急激に変えるような場合には、なんの役にも立たない・・・鉄道の建設がここでも例証に役立つであろう。時間的に無数の小さな歩みを通じておこなわれる連続的適応によって、小規模の小売店から大規模な、例えば百貨店が形成されるというような連続的変化は静態的考察の対象となる。しかし、最も広い意味での生産の領域における急激な、あるいは一つの計画にしたがって生まれた根本的な変化についてはそうはいかない。なぜなら、静態的考察方法はその微分的方法に基づく手段によってはこのような変化の結果を正確に予測することができないばかりでなく、そのような生産革命の発生やそれにともなって現れる現象を明らかにすることができないからである。静態的考察方法はこれらの現象が起こってしまった場合の新しい均衡状態を研究することができるにすぎない。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.,pp.94-95[邦訳 『経済発展の理論』岩波文庫上巻、p.172,(1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.144、強調は引用者]
「第1章の理論は経済生活を均衡状態に向かう経済の傾向という観点から描写したものであり、この傾向は財の価格と数量とを決定する手段をわれわれに与え、そのときどきに存在する予見への適応として示される。・・・理念上の経済的均衡状態の内容は、与件が変化するために、まさに変化するのである。そして理論はこの与件の変化に対して無能力ではない。・・・しかしこれらの方法も、もし経済生活そのものがそれ自身の与件を急激に変えるような場合には、なんの役にも立たない・・・鉄道の建設がここでも例証に役立つであろう。時間的に無数の小さな歩みを通じておこなわれる連続的適応によって、小規模の小売店から大規模な、例えば百貨店が形成されるというような連続的変化は静態的考察の対象となる。しかし、最も広い意味での生産の領域における急激な、あるいは一つの計画にしたがって生まれた根本的な変化についてはそうはいかない。なぜなら、静態的考察方法はその微分的方法に基づく手段によってはこのような変化の結果を正確に予測することができないばかりでなく、そのような生産革命の発生やそれにともなって現れる現象を明らかにすることができないからである。静態的考察方法はこれらの現象が起こってしまった場合の新しい均衡状態を研究することができるにすぎない。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.,pp.94-95[邦訳 『経済発展の理論』岩波文庫上巻、p.172,(1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.144、強調は引用者]
In the first edition of this book, I calledit ‘’dynamics’’ Butit is preferable to avoid this expression here, since it so easily leads us astray because of the associations which attach themselves to its various meanings. Better, then, to say simply what w’e mean economic life changes, it changes partly because of changes in the data, to which it tends to adapt itself. But this is not the only kind of economic change, there is another which is not accounted for by influence on the data from without, but which arises from within the system, and this kind of change is the cause of so many important economic phenomena that it seems worth while to build a theory for it, and, in order to doso, to isolate it from all the other factors of change. The author begs to add another more exact definition, which he is in the habit of using what we are about to consider is that kind of change arising from within the system which so displaces its equilibrium point that the new one cannot be reached from the old one by infinitesimal steps. Add successively as many mail coaches as you please, you will never get a railway thereby.
「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車(mail coach)をどれだけ好きなだけ増加させても、それによって鉄道(railway)を得ることはできないであろう。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.150の英訳注、強調は引用者]
カテゴリー: Schumpeter, イノベーション論, 新結合論
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Schumpeterのイノベーション論関係資料
[Shumpeter関係基本サイト]
von Ulrich Hedt(2020) SCHUMPETER-ARCHIV, 21. September 2020
https://schumpeter.info/
https://schumpeter.info/
著作目録、主要著作のデジタルデータなどが収録されている。
[Shumpeterのイノベーション論関係の基本的著作としてのTheorie der wirtschaftlichen Entwicklungの版]
第1版
Shumpeter, J.A. (1911) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 1. Auflage.
http://www.digibess.it/fedora/repository/object_download/openbess:TO043-00855/PDF/openbess_TO043-00855.pdf
Shumpeter, J.A. (1911) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 1. Auflage.
http://www.digibess.it/fedora/repository/object_download/openbess:TO043-00855/PDF/openbess_TO043-00855.pdf
第2版
Shumpeter, J.A. (1926) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 2. Auflage.[邦訳 (塩野谷祐一•中山伊知郎•東畑精一訳、1977)『経済発展の理論』岩波文庫、上下2冊。(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳、1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、546pp.+16pp.。]
第2版の英語訳
Schumpeter, J.A. (1934) The Theory of Economic Development: An Inquiry into Profits, Capital, Credit, Interest and the Business Cycle, Harvard University Press, Cambridge, Mass.
https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.187354
第7版
Shumpeter, J.A. (1926, 1987) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 7. Auflage. Duncker & Humblot, Berlin.
https://www.mises.at/static/literatur/Buch/schumpeter-theorie-der-wirtschaftlichen-entwicklung-eine-untersuchung-ueber-unternehmergewinn-kapital-kredit-zins-und-den-konjunkturzyklus.pdf
[Shumpeterのイノベーション論関係論文]
- KOBAYASHI,Daisuke (2015) Invention and Development: Toward Schumpeter’s early innovation theory,Discussion Paper, Series A, No.2015-292,Hokkaido University, 10pp
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/60236/3/DPA292new.pdf - 小林大州介(2015)「単線的発展論の超克としての初期イノベーション理論」『経済社会学会年報』37, pp.203-212
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soes/37/0/37_203/_article/-char/ja - 小林大州介(2016)「イノベーションと人工物進化 - シュンペーターとネオ・シュンペーター学派の理論的再考を通じて」平成27年度北海道大学大学院経済学研究科学位請求論文
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/62258/1/Daisuke_Kobayashi.pdf - Yagi, K. (2008) “Schumpeter in the Harvard Yard: inventions, innovations and growth,” in Yuichi Shionoya and Tamotsu Nishizawa (eds.) Marshall and Schumpeter on Evolution: Economic Sociology of Capitalist Development, Edward Elgar, Cheltenham, UK / Northampton, MA, USA, pp. 204-222.
カテゴリー: Schumpeter, イノベーション論
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馬車から鉄道へのInnovationにおける連続性と非連続性
Schumpeterは、経済循環を実現する軌道、すなわち、ある特定の均衡状態(均衡点)へと向かう経済的傾向を連続的とするとともに、そうした均衡状態へと向かう連続的変化を取り扱うのが静態的考察方法である、としている。これに対して、経済循環を実現する軌道の変化、すなわち、古い均衡状態から新しい均衡状態への推移という非連続的変化を取り扱うのが動態的考察方法である、としている。
前者の経済循環を実現する軌道は、「時間的に無数の小さな歩みを通じておこなわれる連続的変化(Kontinuierliche Veränderungen)」として微分的方法(Infinitesimalmethode)によって取り扱うことができる。[Schumpeter,J.A.(1926) 原書第2版 pp.94-95, 1980改訳,p.145,邦訳ではVeränderungenを「適応」と訳しているが、引用に際して「変化」に訂正した。]例えば、「小規模の小売店から大規模な、たとえば百貨店が形成される」といったような変化はそうした均衡状態へと向かう連続的変化である。
後者の経済循環を実現する軌道の変化、すなわち、古い均衡状態から新しい均衡状態への推移は、生産的な革命(produktiver Revolutionen)として非連続的変化であり、微分的方法によっては取り扱うことができない。例えば、駅馬車システムから鉄道システムへのイノベーションは、ある均衡状態から別の均衡状態への変化として非連続的なのものである。
Schumpeterは、下記のように駅馬車システムから鉄道システムへのイノベーションを非連続を表す例として挙げている。
「駅馬車(Postkutsche)から鉄道(Eisenbahn)への変化のように、純粋に経済的なものでありながら、連続的にはおこなわれず、その枠や慣行の軌道そのものを変更し、「循環」からは理解できないような他の種類の変動を経験する」(引用者注:岩波書店版の訳書では、Eisenbahnが「汽車」と訳されているが、引用に際してここでは「鉄道」に訳語を変更した)(Schumpeter,J.A.(1926) 原書第2版 pp.93-94 :1977訳書 p.171:1980改訳 p.144)
「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車(mail coaches)をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道(railway)をうることはできないであろう。」Schumpeter,J.A.(1934) The Theory of economic Development, p.64[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.150の英訳注、強調は引用者]
「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車(mail coaches)をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道(railway)をうることはできないであろう。」Schumpeter,J.A.(1934) The Theory of economic Development, p.64[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.150の英訳注、強調は引用者]
しかしながら、駅馬車から鉄道へのイノベーションは,単純な非連続的イノベーションではない。駅馬車システムから鉄道システムへのイノベーション・プロセスには,Schumpeterが指摘するような非連続性とともに,下記に論じるような技術システム的連続性が存在する。
なおこの問題は、技術的には、走行路に関する「道路」から「鉄道」へのイノベーションとして捉えるのがより適切である。「道路」を利用するシステムとして、人力車、馬車、蒸気バス・蒸気自動車・電気自動車・ガソリン自動車などが存在しているのと同じく、「鉄道」を利用するシステムとして、人車鉄道、馬車鉄道、蒸気鉄道・電気鉄道・ディーゼル機関車鉄道、などが存在している。
システム | 技術システム1 | 技術システム2 | 技術システム3 | 技術システム4 |
名称 | 馬車 | 駅馬車 | 馬車鉄道 | 蒸気鉄道・電車鉄道 |
動力 | 馬 | 馬 | 馬 | 蒸気機関車・電車 |
走行路 | 道路 | 道路 | 鉄道 | 鉄道 |
駅システム | なし | あり | あり | あり |
上記の表で示したように、駅馬車システムと鉄道システムを単純に比較した場合には、技術的連続性は確かにない。しかしながら駅馬車システムと鉄道システムは、いわば光のスペクトルの両端であり、駅馬車システムから鉄道システムの途中には、馬車鉄道システムという中間項が存在する。駅馬車システムと鉄道システムは、イギリスで19世紀初頭に登場した馬車鉄道システムを介して、連続性を有しているのである。そのことは、東京馬車鉄道が東京電車鉄道へと1900年に社名変更した参考エピソードなどに示されている。
なお近代における駅馬車システムは、古代における駅伝制と技術的には同様のものである。日本における駅伝制は、馬車のがなく、馬と人のみによるものであったが、中国では馬車の利用もあった。中国ではもともとは駅とは騎馬のためのものであり、伝は車馬のためのものであった。唐の時代には、30里(約13.6km)ごとに駅が設置され、中国全土で1639駅が存在した。(中国では隋・唐の時代に国土が拡大したこともあり、運河や河川などの水路も駅伝制の交通システムの中に組み込まれた。唐では、1639駅の内、水路専用が260,水陸両用が86あった。)
鉄道レールは、蒸気機関車による鉄道システム以前に、馬車による鉄道システムで採用されていた。馬が牽引する車両を、鉄製のレールの上で走らせることで、未舗装の土製の道路の上を走らせるよりも、快適で効率的な輸送の実現を目的としたものであった。土製の道路の路面は、鉄製レールほどの平滑度がなかったし、雨が降った場合にはぬかるんで馬車の運行に支障をもたらしたからである。
[参考資料]
Shumpeter, J.A. (1926) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 2. Auflage.(邦訳,塩野谷祐一•中山伊知郎•東畑精一訳『経済発展の理論』岩波文庫,1977年)(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳、1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店)
Shumpeter, J.A. (1926, 1987) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 7. Auflage. Duncker & Humblot, Berlin.
https://www.mises.at/static/literatur/Buch/schumpeter-theorie-der-wirtschaftlichen-entwicklung-eine-untersuchung-ueber-unternehmergewinn-kapital-kredit-zins-und-den-konjunkturzyklus.pdf
[参考エピソード]
馬車鉄道は日本では東京馬車鉄道が1882年に運行を開始し、全国に広まった。東京馬車鉄道は1900年に東京電車鉄道に社名変更をおこない、1903年に路面電車による電車化に取り組みはじめたが、その前年の1902年における乗客数は年間4220万にものぼった。(なお1900年の営業距離数は1万Kmであった。)
都電のレール間隔が馬車鉄道のレール間隔と同じとなったのは、東京電車鉄道が電化に際してそれまでの馬車鉄道のレールを利用して路面電車を走らせたためである。
都電のレール間隔が馬車鉄道のレール間隔と同じとなったのは、東京電車鉄道が電化に際してそれまでの馬車鉄道のレールを利用して路面電車を走らせたためである。
京王電鉄は、京王線の都電への乗り入れを計画していたことで京王線のレール間隔を都電と同じ1372mmとした。
小林拓矢(2018)「鉄道の「レールの幅」会社や路線でなぜ違う?-1つの会社で複数のレール幅がある場合も」東洋経済オンライン、2018年8月14日
https://toyokeizai.net/articles/-/233385?page=3
東京ふしぎ探検隊(2018)「東京の地下鉄、レール幅なぜ違う 直通巡り二転三転」2018/3/11
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO27809120X00C18A3000000?page=3
カテゴリー: Schumpeter, イノベーション論
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基礎研究の意義に関する社会的認識
イノベーションによる社会経済発展の源泉としての基礎科学
- ウオーターマン、A. T.「[National Science Foundation (1960) Proceedings of a Conference on Academic and Industrial Basic Researchの]日本語版の発刊を祝って」
「科学技術が経済発展の原動力として大きな役割を果たしている事実については,日本はもちろんアメリカにおいても最近関心がいっそう高まってきております.とくに近年,驚異的成長を遂げた日本の経済を見ますと発展の重要な原動力の一つとして,科学と技術の成果が工業生産に結集されたことをあげなければなりません.また,このような技術革新のモチベイションも,研究開発に必要な諸経費も,日本の産業界によって主に生み出され賄われたことをあわせて特記する必要があると思っています.日本と同じように,近年におけるアメリカの経済発展も,研究開発の成果から新しい製品や新しい製造工程がつぎつぎに生み出された結果によるものであります.
基礎研究は,日本でもアメリカでも,昔から主に大学の科学者•技術者によって行なわれてきました.産業界が新しい製品を開発したり新しい製造工程を生み出すためには,基礎研究が大切であってその成果が長い間に実を結ぶという認識が最近,日本でもアメリカでも高まってきております.」National Science Foundation(館林晶平訳、1965)『技術革新と基礎研究』山海堂
本文章を執筆したウオーターマン、A. T.は、1951年から1963年7月までアメリカ大統領府国立科学財団(National Science Foundation)の長官を務めた人物である。 - 文部科学省基礎科学力の強化に関するタスクフォース(2017)『基礎科学力の強化に向けて-「三つの危機」を乗り越え、科学を文化に-(議論のまとめ)【本文、参考資料】』p.1
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/07/1384930_02_1.pdf
「基礎科学は、新たな知を創出、蓄積し持続的なイノベーションによる社会経済の発展の源泉となるものであり、その振興が極めて重要であることは論を俟たない。」
文化としての学術研究・基礎研究-短期的有用性とは異なる
「我が国は、科学技術の発展を国の繁栄の礎と政策的に位置付けているが、1.で記した学術研究・基礎研究の意義について社会の各界、国民一人一人のレベルで理解され、浸透しているとは言い難い。研究の価値について、すぐに役に立つか否かという尺度で論じる意識・価値観は依然として根強く、その半面、真理を探究する営みそのものを文化として位置づけ、十分な価値を認めるには至っていない。」文部科学省基礎科学力の強化に関するタスクフォース(2017)『基礎科学力の強化に向けて-「三つの危機」を乗り越え、科学を文化に-(議論のまとめ)【本文、参考資料】』p.5
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/07/1384930_02_1.pdf
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/07/1384930_02_1.pdf
イノベーションによる社会的課題・経済的課題の解決には科学技術イノベーションが不可欠、イノベーションの源泉としての学術研究・基礎研究
「世界的に先例のない少子高齢化とそれに伴う人口減少が進む我が国は、社会的・経済的な課題を多数抱えており、これらを解決し、国民生活を豊かにするためには、社会変革をもたらす科学技術イノベーションが不可欠である。また、我が国が科学技術イノベーションを持続的に創出するためには、人材、知、資金といった基盤的な力の強化と、世界に広がる知的資源を迅速かつ効果的に活用していく仕組みの構築が必要である。基本計画は、こうした認識に立ちつつ、学術研究・基礎研究を「イノベーションの源泉」として位置づけ、その推進を重視する方針を示すとともに、これにかかわる達成目標(総論文数の増加、総論文数に占める被引用回数トップ10%論文数の割合を基本計画期間中に10%等)を掲げている。」文部科学省基礎科学力の強化に関するタスクフォース(2017)『基礎科学力の強化に向けて-「三つの危機」を乗り越え、科学を文化に-(議論のまとめ)【本文、参考資料】』p.6
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/07/1384930_02_1.pdf
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/07/1384930_02_1.pdf
新たな社会を設計し、価値創造の源泉となる「知」の創造
新たな社会を設計し、その社会で新たな価値創造を進めていくためには、多様な「知」が必要である。特にSociety 5.0 への移⾏において、新たな技術を社会で活⽤するにあたり⽣じるELSI24に対応するためには、俯瞰的な視野で物事を捉える必要があり、⾃然科学のみならず、⼈⽂・社会科学も含めた「総合知」を活⽤できる仕組みの構築が求められている。
また、「知」は、⾮連続な変化に対応し、社会課題を解決するイノベーションの創出の源泉である。研究者の内在的な動機に基づき、新しい現象の発⾒や解明、新概念や価値観の提⽰を⾏うことで、フロンティアを切り拓いていく必要がある。基礎研究・学術研究をはじめとした多様な研究の蓄積があり、その積み重ねの結果として、時に独創的な成果が創出され、世界を変えるような新技術や新しい知⾒が⽣まれる。」『第6期科学技術・イノベーション基本計画』p.14
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf
また、「知」は、⾮連続な変化に対応し、社会課題を解決するイノベーションの創出の源泉である。研究者の内在的な動機に基づき、新しい現象の発⾒や解明、新概念や価値観の提⽰を⾏うことで、フロンティアを切り拓いていく必要がある。基礎研究・学術研究をはじめとした多様な研究の蓄積があり、その積み重ねの結果として、時に独創的な成果が創出され、世界を変えるような新技術や新しい知⾒が⽣まれる。」『第6期科学技術・イノベーション基本計画』p.14
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf
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Strategy&「2018年グローバル・イノベーション調査」
https://www.strategyand.pwc.com/jp/ja/publications/innovation1000.html
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Strategy&(2018) 「2018年グローバル・イノベーション1000調査結果概要」2018.10.30
カテゴリー: イノベーション論, ダウンロード可能資料, 文献案内
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science-driven innovation
デュポン(2014)「イノベーションの基礎となるデュポンの科学」
http://www.dupont.co.jp/corporate-functions/our-approach/science.html
本WEBページでは、「未来を見据え、デュポンとお客様のために解き明かした当社の科学の価値は、あらゆる場所の人々の生活向上に役立てられる新発見追究の資源となるでしょう。」として、科学が「市場主導型イノベーションの基礎」となるとされている。
DuPont(2015) “Collaborations Enhance Our Ability to Innovate”
http://www.dupont.com/corporate-functions/our-approach/innovation-excellence/science/science-collaboration.html
本WEBページでは、科学および科学者の役割が下記のように強調されている。
“DuPont scientists and engineers connect market needs to science-based solutions. “、”DuPont’s mission has always been to apply world-class science to solving the most difficult challenges of our time. This applies today more than ever, as the 21st century makes extraordinary demands of increasing complexity and scale.”、”Every day, DuPont scientists and engineers are working collaboratively with academics, governments, other companies and organizations to deliver scientific innovations and long-term sustainable solutions to help improve the lives of people everywhere.
With approximately 9,000 scientists and engineers at more than 150 R&D facilities around the world, our scientists have the ability to develop rich insights about local customer needs and foresight about where the next challenges will arise. Our scientists and engineers connect this market knowledge to diverse technology platforms across our businesses.
Global collaboration and market-driven science enable us to respond to customer needs and deliver solutions at a commercial scale.”
Schiermeier, Q. (2010)”Russia to boost university science:But can it break the dominance of the Russian Academy of Sciences without breaking the research base?” Nature, 464, 1257
Published online 27 April 2010
doi:10.1038/4641257a
https://www.nature.com/news/2010/100427/full/4641257a.html
https://www.nature.com/news/2010/100427/pdf/4641257a.pdf
「ロシアの科学的アウトプットは、過去のソ連時代の輝かしい時代とは異なり、中国、インド、韓国にも遅れを取るようになってしまった。ロシアの科学は、1990年代の準-壊滅状態(a near collapse)および西洋への数千人規模の研究者の脱出の打撃からまだ回復してはいない。
ロシアは、こうした衰退状態に対抗し、science-driven innovationを促進(foster)しようと、大学への多額の投資をしようとしている。」ということを報じた記事。
needs概念に関する社会的主体視点からの考察
needsを歴史的=社会的諸関係を捨象した抽象的概念として理解したのでは、needs充足ということの社会的意義を理解することができない。すなわち、現実の「生産=消費」関係の中でneedsを議論する場合には、needsが何らかの社会的主体のneedsであることを見る必要がある。
単純な抽象化では、needs-wants-demandはproductの消費プロセスとして捉えられ、消費者のneedsを充足するためにproductが生産されるという形で理解されることが多い。
しかし「生産=消費」関係を社会的主体の関係として見た場合、すなわち「生産者=消費者」関係として見た場合には、消費者のneedsとともに、生産者のneedsも議論する必要があることがわかる。
消費者のneedsは、「自己の生物学的生存(生物的活動の維持・発展)に必要なもの」や、「自己の社会的生存(社会的個体としての存続・発展、夫or妻・親or子としての存続・発展、社会的主体としての社会的活動の維持・発展)に必要なもの」といった形に分析的に理解できる。
生産者のneedsは、生産活動に必要なものである。競合企業に対する持続的競争優位の確保、あるいは、社会的発展を可能にする製品の高性能化や低コスト化などへのneedsが生産手段の技術的変革を社会的に促す。例えば以下の引用を見よ。
「火力発電機が高温・高圧化する結果,ますます耐熱性の高い材料が要求されてくる。工作機械の切削速度が速くなるにつれ,あるいは速くしたいために,それに耐えうる工具鋼が要求されてくるのである。工作機械自体も,はじめは木材からできていたのが,1797年モーズレーの旋盤の出現の頃を境にして,木材のフレームから狂いの少ない鉄へと転換した。精度と高速運転の要求が木材から鉄への転換を促したのであり,この関係は織機についても同じである。」中村静治(1977)『技術論入門』有斐閣、p.56
Innovationに関する理論的研究論文
Godin, G.(2015) “Models of innovation: Why models of innovation are models, or what work is being done in calling them models?,” Social Studies of Science, 45(4), pp. 570-596
https://www.jstor.org/stable/43829043
本論文は innovationモデルを取り扱うもので、1940年代から1980年代までの文献を対象としている。