Schumpeterにおける非連続的な新結合(neue Kombination) の5つの類型-連続性vs非連続性

シュムペーターは、生産を「いろいろな物や力を結合する」こととして捉えている。それゆえシュムペーターにおいては、生産を変更することは物や力の結合を変更することと同義である。
さらにまたシュムペーターは、変更に関して連続的=漸次的(kontinuierlich)な変化と、非連続的(diskontinuierlich)な変化を区別し、小さな歩み(kleine Schritte)を積み重ねる連続的=漸次的な変化による経済発展ではなく、非連続的な変化による経済発展が自らの考察の対象であるとして、「新結合が非連続的にのみ現れることができ、また事実そのように現れる限り、(経済)発展に特有な現象が成立する」「記述の便宜上の理由から、以下において生産手段の新結合について語るときには、もっぱらこのような場合のみを意味することにしよう」(Schumpeter,1926,p.100,1980改訳,p.152)と述べている。
 
そうした上でシュムペーターは、経済の非連続的な発展をもたらす「新結合の遂行」(Durchsetzung neuer Kombinationen)に関して、下記の5つの類型を挙げている。
 
1 新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨(Gutes)、あるいは新しい品質の財貨の生産。
Herstellung eines neuen, d. h. dem Konsumentenkreise noch nicht vertrauten Gutes oder einer neuen Qualität eines Gutes.

2 新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方法の導入。これはけっして科学的に新しい発見にもとづく必要はなく、商品の商業的取り扱いに関する新しい方法をも含んでいる。
Einführung einer neuen, d. h. dem betreffenden Industriezweig noch nicht praktisch bekannten Produktionsmethode, die keineswegs auf einer wissenschaftlich neuen Entdeckung zu beruhen braucht und auch in einer neuartigen Weise bestehen
kann mit einer Ware kommerziell zu verfahren. (以上、原著p.100)

3 新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わない。
Erschließung eines neuen Absatzmarktes, d. h. eines Marktes, auf dem der betreffende Industriezweig des betreffenden Landes bisher noch nicht eingeführt war, mag dieser Markt schon vorher existiert haben oder nicht.

4 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。この場合においても、この供給源が既存のものであるか、――単に見逃していたのか、その獲得を不可能と見なしていたのか――あるいは初めて作り出されねばならないかは問わない。
Eroberung einer neuen Bezugsquelle von Rohstoffen oder Halbfabrikaten, wiederum: gleichgültig, ob diese Bezugsquelle schon vorher existierte. — und bloß sei es nicht beachtet wurde sei es für unzugänglich galt — oder ob sie erst geschaffen werden muß.

5 新しい組織の実現、すなわち独占的地位(たとえばトラスト化による)の形成あるいは独占の打破。
Durchführung einer Neuorganisation, wie Schaffung einer Monopolstellung (z. B. durch Vertrustung) oder Durchbrechen eines Monopols.

Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed., pp.100-101[(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳、1977)『経済発展の理論』岩波文庫、上183頁、(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳、1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.152]

 
Schumpeterは、連続的変化と不連続的変化を次のように区別している。
 
「第1章の理論は経済生活を年々歳々本質的に同一軌道にある「循環」の観点から描写したものである-これは動物的有機体の血液循環に比較することができよう。ところでこの経済循環およびきどうそのもの-単にその個々の局面だけでなく-は変化する。そして血液循環との対比はここで用をなさなくなる。なぜなら、血液循環も有機体の成長や衰退の過程において変化するけれども、それはただ連続的に、すなわち、与えられるいかなる微少量よりもさらに微少な刻みをもて、しかも常に同じ枠の中で変化するに過ぎないからである。経済という生命もまた同様な変化を経験するが、しかしさらにそれ以外にたとえば駅馬車から汽車への変化のように。純粋に経済的-「体系内部的」-なものでありながら、連続的にはおこなわれず。その枠や慣行の軌道そのものを変更し、「循環」からは理解できないような他の種類の変動を経験する。このような種類の変動およびその結果として生ずる現象こそわれわれの問題設定の対象となるものである。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.,pp.93-94[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、pp.143-144、強調は引用者]

「第1章の理論は経済生活を均衡状態に向かう経済の傾向という観点から描写したものであり、この傾向は剤の価格と数量とを決定する手段をわれわれに与え、そのときどきに存在する予見への適応として示される。・・・理念上の経済的均衡状態の内容は、与件が変化するために、まさに変化するのである。そして理論はこの与件の変化に対して無能力ではない。・・・しかしこれらの方法も、もし経済生活そのものがそれ自身の与件を急激に変えるような場合には、なんの役にも立たない・・・鉄道の建設がここでも例証に役立つであろう。時間的に無数の小さな歩みを通じておこなわれる連続的適応によって、小規模の小売店から大規模な、例えば百貨店が形成されるというような連続的変化は静態的考察の対象となる。しかし、最も広い意味での生産の領域における急激な、あるいは一つの計画にしたがって生まれた根本的な変化についてはそうはいかない。なぜなら、静態的考察方法はその微分的方法に基づく手段によってはこのような変化の結果を正確に予測することができないばかりでなく、そのような生産革命の発生やそれにともなって現れる現象を明らかにすることができないからである。静態的考察方法はこれらの現象が起こってしまった場合の新しい均衡状態を研究することができるにすぎない。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.,pp.94-95[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.144、強調は引用者]
「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道をうることはできないであろう。」Schumpeter,J.A.(1926) Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2nd ed.[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.150の英訳注、強調は引用者]

 
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