前者の経済循環を実現する軌道は、「時間的に無数の小さな歩みを通じておこなわれる連続的変化(Kontinuierliche Veränderungen)」として微分的方法(Infinitesimalmethode)によって取り扱うことができる。[Schumpeter,J.A.(1926) 原書第2版 pp.94-95, 1980改訳,p.145,邦訳ではVeränderungenを「適応」と訳しているが、引用に際して「変化」に訂正した。]例えば、「小規模の小売店から大規模な、たとえば百貨店が形成される」といったような変化はそうした均衡状態へと向かう連続的変化である。
後者の経済循環を実現する軌道の変化、すなわち、古い均衡状態から新しい均衡状態への推移は、生産的な革命(produktiver Revolutionen)として非連続的変化であり、微分的方法によっては取り扱うことができない。例えば、駅馬車システムから鉄道システムへのイノベーションは、ある均衡状態から別の均衡状態への変化として非連続的なのものである。
「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの微分的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車(mail coaches)をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道(railway)をうることはできないであろう。」Schumpeter,J.A.(1934) The Theory of economic Development, p.64[邦訳 (1980改訳)『経済発展の理論』岩波書店、p.150の英訳注、強調は引用者]
システム | 技術システム1 | 技術システム2 | 技術システム3 | 技術システム4 |
名称 | 馬車 | 駅馬車 | 馬車鉄道 | 蒸気鉄道・電車鉄道 |
動力 | 馬 | 馬 | 馬 | 蒸気機関車・電車 |
走行路 | 道路 | 道路 | 鉄道 | 鉄道 |
駅システム | なし | あり | あり | あり |
Shumpeter, J.A. (1926, 1987) Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 7. Auflage. Duncker & Humblot, Berlin.
https://www.mises.at/static/literatur/Buch/schumpeter-theorie-der-wirtschaftlichen-entwicklung-eine-untersuchung-ueber-unternehmergewinn-kapital-kredit-zins-und-den-konjunkturzyklus.pdf
[参考エピソード]
都電のレール間隔が馬車鉄道のレール間隔と同じとなったのは、東京電車鉄道が電化に際してそれまでの馬車鉄道のレールを利用して路面電車を走らせたためである。
京王電鉄は、京王線の都電への乗り入れを計画していたことで京王線のレール間隔を都電と同じ1372mmとした。
小林拓矢(2018)「鉄道の「レールの幅」会社や路線でなぜ違う?-1つの会社で複数のレール幅がある場合も」東洋経済オンライン、2018年8月14日
https://toyokeizai.net/articles/-/233385?page=3
東京ふしぎ探検隊(2018)「東京の地下鉄、レール幅なぜ違う 直通巡り二転三転」2018/3/11
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO27809120X00C18A3000000?page=3