科学的研究の「基礎研究」的性格に関する歴史的主張

原子力に関わる「基礎研究的性格」論
オニール,ジョン・ジェー(鈴木訳,1940)「社会生活に革命を起こす原子動力の発見」『アメリカ』(新世界朝日新聞東京支社),1(3), 1940年8月号, pp.36-39
本記事は、原子力に関する科学的発見が社会生活に大変革をもたらすというようにその革命的意義を強調するとともに、科学者による基礎的研究の次の段階が技術者による実用化である、としている。
世紀の科学の凱歌がアメリカ科学によって挙げられた。19世紀のキュリー夫妻のラジユーム発見にも比すべき大発見が科学者の一群によって成遂げられたのである。いやラヂユームの発見よりも更に大きな影響が予想される。社会生活に大革命を招来するだろうことが期待されるのだ。・・・新しい、奇異な物質が分離し、空想にも及ばなかったような大きな力を放射することが、アメリカの実験室から発表された。それはラヂユームと同じ鉱石の中に隠されていたウラニウム235である。しかもラヂユームに比して数億倍も多量に含まれ、数百億倍の力を放射するという麒麟児だ。この新しく分離された原子はその爆発力によって石炭の燃焼によって得られる力に比し、実に500万倍の強力なものである。しかもこれは全原子動力放射の第一歩であって、全原子動力は如何なる化学燃焼の方法によるものよりも180億倍も強いのだ。/アメリカの科学は、この強大な力の存在を理論的にも、実験的にも証明した。そして次の研究段階は技術家がこの原子動力を実用的なものとすることで、その方法はこの原子を含む原料を分解する実用的方法を発見することに懸つている。これが為には、一方には実験的規模と、他方には大量生産規模とが併行して研究が進められねばならない。そしてそれが成就する日こそ、現代文化革命の日であり、人類の社会生活に大変革が起こるのである。その基礎的研究は、既に最近アメリカ科学が完成したのである。」p.36
 
科学(1943)「戦時下に於ける科学の進展について」『科学』岩波書店,1943年11月号,p.1
無署名の本巻頭言は、戦時下において直接的には役立たない科学研究をおこなうことの意義について次のように主張している。
「かやうな場合に於ても我々科学者としては,そこに多少の余裕の存する限りは,科学上の根本的な研究を推し進めることを忘れてはならないのであり,かやうな研究の進展を切望しないわけにゆかないのである。なぜと云へば,それが意外な点に於てまた戦力増強に貢献しないとも限らないからである。すなはち自然はいかにも巧妙につくられてゐるのであって,どんな所に異常な現象を呈するかを我々は予め想描することが不可能なのであり,そこに予想外な新発見が結果しないとは限らないからである。・・・周知の如く科学上の研究はいつも我々の予想外の発見を持ち来すといふことは従来のあらゆる経験が之を実証してゐるのであり,この意味に於て多少でも余裕の存する限り,科学者はやはりその根本的な研究を推し進めることに努力しなければならないのであらう。」
そして科学者によるそうした予想外の新発見の例として原子核分裂を挙げるとともに、それがエネルギー論的意味を持つことを強調している。
「具体的な一例をここに記して見るならば,先年ドイツのハーン及びシュトラースマンによってウラン原子及びトリウム原子を中性子で爆撃することにより原子核の分裂が発見せられたことなど重要な事実である。・・・しかもこの分裂に伴って巨大なエネルギーが放出せられることも明らかになったのである。」
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Alexanderの議論

1.製品アーキテクチャ論の前史としてのChristopher Alexanderの主張
AlexanderはAlexander(1966), Notes on the Synthesis of Form, p.116において、「分解(decomposition)が設計者にとってともかくも有用である」という前提を問題にしている。そして、「設計者は単一性(singleness)という意味においてintegrityを求め続けるものである」として設計における<総合>的側面の存在を主張する一方で、「設計プログラムの起源は分析的(analytical)である」として<分析>的側面の存在も主張している。そして設計プロセスにおける、そうした「分析と総合」(analysis and synthesis)という二つの目的の間の対立は、「[分析をおこなう]知性(intellect)と[総合をおこなう]アート(art)が設計において両立しない(incompatible)」とか、「「うまく組織された統一的設計」(unified well-organized designs)を設計者が作り上げるのに分析的プロセスは役に立たない」という主張へと人々を導く、と下記のように述べている。

Before we try to define a decomposition criterion we may want to question the assumption that such a decomposition can be of any use at all to a designer. The designer as a form-maker is looking for integrity (in the sense of singleness); he wishes to form a unit, to synthesize, to bring elements together. A design program’s origin, on the other hand, is analytical, and its effect is to fragment the problem. The opposition between these two aims, analysis and synthesis, has sometimes led people to maintain that in design intellect and art are incompatible ,and that no analytical process can help a designer form unified well-organized designs.
 
2.Christopher Alexanderの論稿
(1) Alexander, C.(1965) “A City is not a Tree”
本論文は、最初は下記のように1965年にpart I,Part IIの二つに分けて公刊されている。
 
Alexander(1965) “A City is not a Tree – Part I,” Architectural Forum, Vol.122, No.1, April 1965, pp 58-62.
Alexander(1965) “A City is not a Tree – Part II,” Architectural Forum, Vol.122, No.2, May 1965, pp 58-62.
 
http://www.rudi.net/books/5613によると、本論文は下記のようにさまざまな雑誌で何度も再録されている。
Design No 206, February 1966, pp 46-55;
Ekistics Vol 23, pp 344 – 348, June 1967;
Hefti Birtingur No 13, 1967, pp 50-72;
Architecture Mouvement Continuite 1, November, 1967, pp 3-11;
Cuadernos Summa-Nueva Vision, No 9, September 1968, pp 20-30;
Stichting Wekgemeenschappen Bergeijk, 2; (1966?), pp.77-108
Approach, Spring 1968, pp 26-27;
It also appeared later in anthologies and other edited works:
Architecture Anthology, (1969), Arizona State University, pp. 580-590;
Tres Aspectod de Matematica y Deseno, (1969), Barcelona, pp. 19-60;
La Estructura de Medio Ambiente, (1971) Barcelona, pp. 17-55;
Human Identity in the Urban Environment, Bell, G & Tyrwhitt, J(eds), Harmondsworth, UK, Penguin Books, 1972;
Design After Modernism: Beyond the Object, Thackara, J. (ed.) (1988), Thames and Hudson, London, pp. 67-84;
Architecture Culture 1943-1968: a Documentary Anthology, Ockman, Joan, ed. (1993), Columbia Books of Architecture and Rizzoli, New York, pp.379-388.
なお下記の本にも再録されている。。
Jonathan Crary, et al. (eds.) (1985) Zone 1/2, Johns Hopkins University Press, pp.128-149.
 
なお本論文は下記でダウンロードできる。
 
 
(2) Alexander(1966), Notes on the Synthesis of Form, Harvard University Press[稲葉武司訳(1978)『形の合成に関するノート/都市はツリーではない 』鹿島出版会]
本書は、下記WEBページからダウンロードできる。なお邦訳書はNotes on the Synthesis of Formと、Alexander, C.(1965) “A City is not a Tree”を含んでいる。

http://monoskop.org/images/f/ff/Alexander_Christopher_Notes_on_the_Synthesis_of_Form.pdf

 
(3) Alexander, C. et al.(1977) A Pattern Language – Towns, Buildings, Construction, Oxford University Press
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Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance

Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance[藤本隆、クラーク, K. B. (2009) 『製品開発力 : 自動車産業の「組織能力」と「競争力」の研究』ダイヤモンド社]における製品開発論

製品開発(product development)を構成する主要な4段階
1) concept development
2) product planning
3) product engineering
4) process engineering
「それぞれの段階における内的なcritical linkagesと、それぞれの段階にまたがるcritical linkagesの両方」(the critical linkages within and across them)を藤本=クラークは問題にし、日本、アメリカ、ヨーロッパでは「それぞれ異なるlinkagesが創出され、管理されている」(each creates and manages the linkages differently)としており、3類型にパターン化できるとしている。
 
linkagesの創出・管理を規定している要因としては下記の3つがある。
(1) a firm’s ability to build channels of communication(コミュニケーション・チャネルの構築能力)
(2) attitudes toward cooperation(共同に対する態度)
(3) the skill of the engineers(エンジニアのスキル)
 
「自動車のようなインテグラル製品においては諸機能の統合が必要である」ということに関する認識
「企業が製品開発をどのように組織しているのか?」(a firm organizes development)、すなわち、「企業が(製品開発)作業をどのように分割し、調整するのか?」(how it divides up and coordinates the work)という問題に関しては、製品開発プロセス(the development process)の「組織化」(organization)の二つの側面 — 「専門化」(specialization)と「機能間的統合」(cross-functional integration)を考察する必要がある。
“Organizationally, the development process achieves internal integrity mainly through cross-functional coordination within the company and with parts suppliers.” Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance, p.30(『製品開発力』p.53)
翻訳では、cross-functional coordination within the company and with parts suppliersが「企業内部および部品メーカーとの間における部門横断的な調整」という訳になっており、functionのニュアンスが訳されてない。
“Cross-functional coordination within the firm (internal integration and other mechanisms)” Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance, p.298(『製品開発力』)
 
「互いにうまく働くパーツ」は、「緊密に結びつけられ統合されている」(closely linked and integrated)組織によってつくられる、という発想
“parts that work well together are produced by organizations that are closely linked and integrated.”「ピッタリ合ってうまく作動するpartsは、緊密に結びついており、統合されている組織によって製造される。」Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance, pp.30-31

『製品開発力』p.53では、organizations that  are closely linked and integratedが「緊密に連携がとれ、調整力のある組織」と訳されており、integratedのニュアンスが意訳されすぎている。)
 
自動車は、「数千の、機能的に有意味なコンポーネント」(thousands of functionally meaningful components)から構成されている。「数多くのコンポーネントの間の微妙なトレードオフおよび緊密なinterdependence」(subtle trade-offs and tight interdependence among many components)がtotal vehiclesのinternal coordination(の実現)を極端に挑戦的なものとしている。
“An automobile is composed of thousands of functionally meaningful components, each requiring many production steps. The technological sophistication of each component may be somewhat lower than that found in some high-tech products, but subtle trade-offs and tight interdependence among many components makes internal coordination of the total vehicle extremely challenging. Small size makes layout coordination for some cars quite difficult. Use of common parts across products complicates interproject coordination. The automobile thus places high on the internal complexity axis in Figure 1.1.”
Clark, K.B., Fujimoto, T. (1991) Product Development Performance, p.10(『製品開発力』)

「integrityを実現する」
Four Modes of Integration

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C. Y. Baldwinと K.B. ClarkによるDesign Rule論

「各partsが衝突し、一つの全体としてのsystemを殺してしまうことが確かに生じないように、modular systemからなる構築物を支配するのに必要な」事前決定、初期決定としてのDesign rules
Baldwin,C.Y., Kim, B. C. (2006) “Roadmap for Design Rules,” p.4や、Design Rules: Volume 1, The Power of Modularity中国語版序文[日本語版序文を基に書かれた序文]において、「人工物の設計に関わる決定のすべてを先延ばしにできるわけではない」、すなわち、「他の諸決定と調和的に働かせるための枠組みを提供するために、いくつかの初期的決定が必要である」と述べた上で、「そうした初期決定がDesign Ruleとして役立つであろう」としている。そして、design rulesを「うまくつくる」(well-constructed)ことができれば、modular systemを構成する数多くの諸部分に「調和を与える」(provide harmony)ことができる、としている。

Obviously, however, not all decisions about the design of an artifact can be postponed: some early decisions are necessary to provide a coordinating framework for the others. Those early decisions, in turn, would serve as rules — design rules. Design rules were needed to govern the building out of a modular system, ensuring that the respective parts did not clash and in so doing “kill” the system as a whole. Such rules, when well-constructed, provided harmony among the many different parts of a modular system.
Baldwin,C.Y., Kim, B. C. (2006) “Roadmap for Design Rules,” p.4
http://www.people.hbs.edu/cbaldwin/dr2/baldwindrroadmap.pdf
http://www.people.hbs.edu/cbaldwin/dr2/baldwinchinaprefacev1_2.pdfのp.4/13
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製品アーキテクチャ論関連文献

Ulrich
Ulrichの下記WEBページに著作一覧がある。
http://www.ktulrich.com/writing.html
http://www.ktulrich.com/uploads/6/1/7/1/6171812/ulrichcv-sep2015.pdf
基本的著作に下記がある。

Ulrich, K. & Seering, W. “Function sharing in mechanical design”, Design Studies, Vol.11,
no. 4, pp. 223-234, 1990.
Ulrich,K., Tung, K. (1991) “Fundamentals of Product Modularity,” Proceedings of the 1991 ASME Winter Annual Meeting Symposium on Issues in Design/Manufacturing Integration (ASME DE-Vol. 39) pp.73-79
Issues in Design/Manufacture Integration – 1991 American Society of Mechanical Engineers, Design Engineering Division (Publication) DE, 39. pp. 73-79, ASME, New York, NY, USA, 1991
Issues in design/manufacture integration–1991 : presented at the Winter Annual Meeting of the American Society of Mechanical Engineers, Atlanta, Georgia, December 1-6, 1991 / sponsored by the Design for Manufacture Committee of the Design Engineering Division, ASME ; edited by A. Sharon … [et al.].
Karen
Ulrich,K.(1994)”Fundamentals of Product Modularity” in S. Dasu ct al. (ds.), Management of Design
Ulrich, K. & Eppinger, S. (1995) “Product Design and Development”, McGraw Hill, ISBN:0070658110,

ダウンロード可能な本が下記にある。

Modularity概念関連のエッセイレビュー
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純粋基礎研究 vs 目的基礎研究 – 応用目的の有無による基礎研究の種別的分類

1.応用的目的・実際的目的の有無による純粋研究の区分-「純粋基礎研究」および「目的基礎」といった概念の形成史
(1)J. S. Huxley (1934) Scientific Research and Social Needs, London: Watts and Co. - 「実際的目的を意識的には持ってはいない」pure research としてのbackground research vs 「何らかの長期的な実際的目的を持つ」pure research としてのbasic research
 
Huxley (1934)p.253は、研究を「実践からの距離」(different degrees of remove from practice)を基準として、 background、basic、 ad hoc 、 developmentという4種類に分類している。最初の二つが純粋研究(pure research)に属するもので、後の二つが応用研究(applied research)に属するものである。

background researchは、原子物理学や実験発生学(experimental embryology)など「実際的目的を意識的には持ってはいない」(with no practical objective consciously in view)研究である。
basic research は、土壌学(soil science)、気象学(meteorology)、動物育種学(animal breeding)など「まったく基本的な研究ではあるが、何らかの長期的な実際的目的を持つ」( “quite fundamental, but has some distant practical objective)研究である。
Huxley (1934)p.253では「それら二つのカテゴリーが純粋科学(pure science)と通常呼ばれているものを構成している」(Those two categories make up what is usually called “pure science”)とされている。
なお ad hoc researchは、発光を目的とする放電管研究、マラリア撲滅を目的とする蚊に関する研究など「直接的目的」(immediate objective)を持つ研究である。
development  researchは、産業においてpilot reseachとも呼ばれているもので、「実験室での発見を商業的規模での量産へと変えるのに必要な研究」(the work needed to translate laboratory findings into full-scale commercial practice)である。

(2) B.Godin – oriented research
Godin(2009)pp.22-23は、自らのoriented research概念は、J. S. Huxley (1934) Scientific Research and Social Needs, London: Watts and Co., p.253における研究分類(background, basic, ad hoc and development)に由来する、としている。
 
2.「基礎研究」概念関係資料
(1) 欧文著作
 
(2) 日本語関連著作・論文
日本労務研究会(1964)「企業の研究活動に関する調査結果の概況」『労務研究』(日本労務研究会)17(6) 1964.07, pp.43-49
日本経営工学会編(1975)『管理工学便覧』丸善、p.839
Stokes(1997) Pasteur’s Quadrant p.35の図の翻訳がp.3に掲載されているが、そこでは「基本的理解の探求」という意味のquest for fundamental understandingという語句が、「根本原理の追求」というように少し強く意訳されている。
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3.『科学技術白書』における純粋基礎研究 vs 目的基礎研究
(1)『科学技術白書』昭和39年版
『科学技術白書』昭和39年版の第3章「民間企業の研究活動」の3「企業の基礎研究」の2「基礎研究の重点」の箇所では、科学技術庁「企業の研究活動に関する調査」(昭和38年)からの引用があり、「純粋基礎研究」と「目的基礎研究」という区分に基づいて、民間企業における基礎研究の重点がどちらにあるかを調査した結果が紹介されている。
純粋基礎研究=「どんな応用ができるかわからないが新しい現象や知識の探究」
目的基礎研究=「特定の目的に役立てるため現在不明な点の穴埋めをする研究」
全体としては、「目的基礎研究」に重点を置いている会社が63%、「純粋基礎研究)に重点を置いている会社が9%、両方を同程度に行なつている会社が28%という結果になっている。「第3-6表 基礎研究の実施状況およびその重点」(下記の図)に資本金別、業種別の詳しい調査結果のまとめがある。
科学技術白書』昭和39年版の第3章「民間企業の研究活動」の3「企業の基礎研究」の2「基礎研究の重点」
また,基礎研究を純粋基礎研究と目的基礎研究に分けると,わが国の民間企業等で行なわれている基礎研究の92%が目的基礎研究に属している。しかし,諸外国と比較するとわが国の「会社等」では基礎研究,応用研究のウエイトが大きく,開発研究のウエイトは小さい( 第1‐22表 参照)。・・・一般に,その国の研究費の総額が少ないほどそのなかに占める基礎研究費のウエイトが大きくなる傾向にあり,これを図示すると 第1‐22図 にみられるように,各国の全研究費に占める基礎研究費の割合は一つの傾向線上にあるが,日本の場合だけは特異な存在となつており,わが国においては,基礎研究費の比重が著しく大きい。
『科学技術白書』昭和59年版の当該箇所では下記の注のように、「基礎研究」と「応用研究」の区別、「純粋基礎研究」と「目的基礎研究」の区別がなされていることを紹介した後で、「新材料創出という技術的課題を克服するため,物質に関する新しい知識を探求するような基礎的な研究が推進されつつある」とか、病気の発生メカニズムや人体の構造に関する研究では「純粋な学問的関心」と治療的関心の共在があることなどを挙げて研究現場では基礎研究と応用研究の区別が難しくなってきているとか、素粒子論のような基礎研究が長期的には原子力など応用につながるなどいったことなどを根拠としながら、「基礎的」と「応用目的」を対立的に捉えるべきではない、と主張されている。

注)米国では,「Basic Research」,「Applied Research」,「Development」という一般的な区分の他に,米国国防省関係では「Research」,「Exploratory Development」,「Advanced Development」,「Engineering Development」,「operational System Development」の区分が用いられている。また,西ドイツでは基礎研究と応用・開発研究の2区分が統計上用いられている。我が国でも昭和42年度から昭和49年度までの間,「純粋基礎研究」,「目的基礎研究」,「応用研究」及び「開発研究」の4区分が総務庁(当時総理府)の「科学技術研究調査報告」で用いられていた。
この定義は,OECD諸国の研究開発や統計の専門家によって,研究開発の実態と統計作成の容易さ等を総合的に調和させて作成されたものである。
[出典]
 
4.企業における「基礎研究」論
著者の所属は、科学技術庁 科学技術政策研究所 第1調査研究グループ。
本報告書は、日立製作所基礎研究所長、味の素株式会社中央研究所基礎研究所長、東芝常務取締役総合研究所長、三菱重工業株式会社常務取締役技術本部長、ソニー株式会社R&D戦略グループ本部長、新日本製鐵株式会社取締役中央研究本部副本部長、石川島播磨重工業株式会社理事技術本部副部長・技術研究所長、三井東圧化学株式会社取締役総合研究所長、花王株式会社花王基礎科学研究所長理事、日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所長、日本電気株式会社基礎研究所長など「主だった民間企業における基礎研究の運営や技術戦略企画立案の要職にある方々をお招きし、我が国の主要企業における「基礎研究」の実態とその考え方、あるいは管理運営上の諸問題の解明を目的として開催した」セミナーでの講演、および、そこでの科学技術政策研究所研究員及び科学技術庁の科学技術政策担当行政官などとの間の討論により構成されている
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科学技術基本計画における技術革新、イノベーション、基礎研究

[科学技術基本計画]
 
[各科学技術基本計画におけるイノベーション・モデル]
1.イノベーションのリニア・モデル的発想
(1) 第1期 科学技術基本計画におけるリニア・モデル的発想
「活力ある豊かな国民生活を実現するため、経済フロンティアの拡大や高度な社会経済基盤の整備に貢献し、新産業の創出や情報通信の飛躍的進歩などの諸課題に対応する独創的・革新的な技術の創成に資する科学技術の研究開発を推進する。」
新たな研究成果は、時に、技術体系の革命的な変貌や全く新しい技術体系の出現をもたらし、社会に様々な波及効果を与える。
 
(2) 第2期 科学技術基本計画におけるリニア・モデル的発想
「我が国経済の活力を維持し持続的な発展を可能とするため、技術の創造から市場展開までの各プロセスで絶え間なく技術革新が起きる環境を創成し、産業技術力の強化を図ることで、国際的な競争優位性を有する産業が育成されることが必要である。特に、研究開発に基盤を置いた新産業の創出が必要であり、・・・」『第2期 科学技術基本計画』第1章-2-(2)「 国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて-知による活力の創出-」
研究開発の成果は、市場原理に基づく競争的な環境の中で、現実に利用可能な財・サービスの形で広く社会に普及していくこととなるが、産業技術の役割は、このような知的創造活動の成果の国民生活・経済社会への橋渡しに貢献することである。・・・産学官のセクター間にある「見えない壁」を取り除き、産学官の各セクターの役割分担や各研究機関の特性を踏まえつつ、成果が産業界に活用されるとともに、産業界のニーズ等が公的研究機関へ伝達されることにより、産学官の有機的な連携を促進し、革新的な財・サービスが次々と生まれる技術革新システムを構築する。」『第2期 科学技術基本計画』第2章-II-2「産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革」
 

日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.4における「発見や発明からはじまり、公的研究開発投資によって死の谷を乗り越えて発展した」研究という趣旨の記述、および、「科学的発見や技術的発明を洞力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」としてのイノベーションという趣旨の記述
 
日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.27における「基礎研究で生み出された科学的発見や技術的発明」を基に「革新的技術を生み出す」という記述や「基礎研究からイノベーション創出に至る」という記述

 
 
2.イノベーションの主導要因に関する「シーズ=ニーズ協働説」想
独創的な技術シーズと企業の実用化ニーズをつなぐ人的ネットワークや共同研究体制による「技術革新システム」
「「知的クラスター」とは、地域のイニシアティブの下で、地域において独自の研究開発テーマとポテンシャルを有する公的研究機関等を核とし、地域内外から企業等も参画して構成される技術革新システムをいう。
具体的には、人的ネットワークや共同研究体制が形成されることにより、核をなす公的研究機関等の有する独創的な技術シーズと企業の実用化ニーズが相互に刺激しつつ連鎖的に技術革新とこれに伴う新産業創出が起こるシステムである。このようなシステムを有する拠点を発展させることにより、世界水準での技術革新の展開が可能であり、国としてもその構築を促進することが必要である。」『第2期 科学技術基本計画』第2章-II-3-(1)「地域における「知的クラスター」の形成」
 
[各科学技術基本計画における技術革新、イノベーション定義、基礎研究の位置づけ]
『第1期 科学技術基本計画』に「科学技術の革新的発展」という語は登場するが、「技術革新」および「イノべーション」という語は登場しない。
 
a. 国際競争力確保、地球環境問題、食料問題、エネルギー・資源問題などへの対応における科学技術の役割、および、科学技術の革新的発展意義
「我が国は、グローバル化、ボーダレス化と国際的な経済競争の激化、史上類を見ない速度で進行している人口の高齢化等により、産業の空洞化、社会の活力の 喪失、生活水準の低下等の危機的事態に直面することになるのではないかと強く懸念されている。また、我が国国民を含む人類の未来には、地球環境問題、食料問題、エネルギー・資源問題等地球規模の諸問題が大きく立ちはだかっている。さらに、我が国国民の意識、価値観が、精神的な豊かさを重視する方向に変化していることから、安心して暮らせる潤いのある社会の構築が強く求められている。このような内外の諸課題への対応のために、科学技術が大きな役割を果たしていくことへの期待はますます高まっている。
また、様々な科学技術の革新的発展をもたらすとともに、その成果が人類の共有し得る知的資産としてそれ自体価値を有し、人類に対し貢献し得る基礎研究への期待も非常に大きくなっている。特に、我が国は、今や自ら率先して未踏の科学技術分野に挑戦していくことが強く求められている。科学技術は、次代を担う若者たちが夢と希望と高い志を持つことを可能とし、また人類の未来への展望を開くものといえる。同時に、今日の科学技術は、その成果が生活・社会の隅々まで浸透し、人々への影響を増す一方で、著しく高度化、複雑化しているため、広く国民に、科学技術の意義、役割、成果、波及効果、進展等について理解を求め、関心を得ることが必要となっている。」
 
b. ニーズに対応した科学技術、諸課題の解決に資する科学技術の研究開発推進
「人間が地球・自然と共存しつつ持続的に発展することを可能とするため、人間活動の拡大、開発途上国を中心とする人口の大幅な増加等に伴い顕在化している地球環境、食料、エネルギー・資源等の地球規模の諸問題の解決に資する科学技術の研究開発を推進する。さらに、生活者のニーズに対応し、安心して暮らせる潤いのある社会を構築するため、健康の増進や疾病の予防・克服、災害の防止などの諸課題の解決に資する科学技術の研究開発を推進する。」
 
c. 科学的基礎研究それ自体の人類文化的意義
物質の根源、宇宙の諸現象、生命現象の解明など、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究の成果は、人類が共有し得る知的資産としてそれ自体価値を有するものであり、人類の文化の発展に貢献するとともに、国民に夢と誇りを与えるものである。・・・さらに、自然と人間に対する深い理解は、人類が自然との調和を維持しつつ発展を続ける大前提でもある。」
 
d. 「技術体系の革命的な変貌や全く新しい技術体系の出現」をもたらす科学的基礎研究
新たな研究成果は、時に、技術体系の革命的な変貌や全く新しい技術体系の出現をもたらし、社会に様々な波及効果を与える。
 
『第2期 科学技術基本計画』に「技術革新」は登場するが、第1期と同じく「イノべーション」という語は登場しない。

 
a.技術革新の意義
a.国民生活の安定的発展のためには、絶えざる技術革新が必要
「国民生活を安定的に発展させるためには、絶えざる技術革新により高い生産性と国際競争力を持つ産業を育て、経済の活力を回復していくことが必要である。」
 
b.産業技術力が産業の国際競争力の源泉、産業活動の活性化の原動力であるから、技術革新が必要
産業技術力は、我が国産業の国際競争力の源泉であり、国民生活を支えるあらゆる産業活動を活性化していく原動力でもある。また、産業技術は科学技術の成果を社会において活用する観点からも重要である。我が国経済の活力を維持し持続的な発展を可能とするため、技術の創造から市場展開までの各プロセスで絶え間なく技術革新が起きる環境を創成し、産業技術力の強化を図ることで、国際的な競争優位性を有する産業が育成されることが必要である。特に、研究開発に基盤を置いた新産業の創出が必要であり、このため、科学技術と産業とのインターフェースの改革が急務である
具体的には、例えば、TLO等の技術移転機関が質的量的に充実し、公的研究機関からの特許の移転が進み、公的研究機関発の数多くのベンチャー企業が起こるなど、公的研究機関の研究成果が数多く産業へ移転される、国際標準が数多く提案される、国際的な特許の登録件数が増加する、産業の生産性が向上するなど強い国際競争力を持つことを目指す。」
 
c.科学技術システム
科学技術システムとは、社会の理解と合意を前提に資源を投入し、人材養成及び基盤整備がなされ、研究開発活動が行われ、その成果が還元される仕組みである。すなわち、科学技術システムは、研究開発システム、科学技術関係人材の養成及び科学技術振興に関する基盤の整備からなり、産業や社会とのインターフェースを含むものである。
 
 

1.イノベーションに関するリニア・モデル論的イメージ
a.「発見や発明からはじまり、公的研究開発投資によって「死の谷」を乗り越えて発展した」研究
「総じて、これまでの研究開発投資の成果を概観すれば、研究水準の着実な向上や産学官連携の取組も進展し、これまでの研究成果の経済・社会への還元も進んできている。・・・[新しいがん治療方法(重粒子線がん治療装置)の開発、再生医療用材料(アパタイト人工骨)の実用化、世界最高の変換効率とその量産化技術の開発を達成した太陽光発電、世界最高密度の超小型磁気ディスク装置、光触媒を活用した多様な効果を示す材料の開発など]これらは、いずれも萌芽段階におけるきらりと光る発見・発明から始まり、初期から実用化段階に至る適切な時期に適切な公的な研究開発投資に支えられ、最終段階において先導的な産学による協働が行われたことにより、いわゆる死の谷などの多くの困難を乗り越えて発展したものであり、発展の流れを引き続き加速していかなければならない成果である。」日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.4
 
b.「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」としてのイノベーション
「知的資産の増大が価値創造として具体化するまでには多年度を要することから、第1期・第2期基本計画期間の投資により向上した我が国の潜在的な科学技術力を、経済・社会の広範な分野での我が国発のイノベーション(科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新)の実現を通じて、本格的な産業競争力の優位性や、安全、健康等広範な社会的な課題解決などへの貢献に結びつけ、日本経済と国民生活の持続的な繁栄を確実なものにしていけるか否かはこれからの取組にかかっている。」日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.4
 
c. 「基礎研究で生み出された科学的発見や技術的発明」を基に「革新的技術を生み出す」
「(イノベーション創出を狙う競争的研究の強化)
社会・国民への成果還元を進める観点から、基礎研究で生み出された科学的発見や技術的発明が、単に論文にとどまることなく社会的・経済的価値創造に結びついていくよう、革新的技術を生み出すことに挑戦する研究開発を今後強化する必要がある。これには、研究者の知的好奇心の単なる延長上の研究に陥ることのないよう適切な研究のマネジメントが必要である。
このため、新たな価値創造に結びつく革新的技術を狙って目的基礎研究や応用研究を推進する競争的資金については、例えば、イノベーション志向の目標設定や研究進捗管理等を行う責任と裁量あるプログラムオフィサー(プログラムマネージャー)を置くなどにより、マネジメント体制を強化する。」日本政府(2006)『第4期 科学技術基本計画』p.27
 
d.基礎研究からイノベーションへ
「基礎研究からイノベーション創出に至るまでの多様な制度」日本政府(2006)『第4期 科学技術基本計画』p.27
 
2.基礎研究の位置づけ
a.「地道で真摯な真理探求と試行錯誤の蓄積の上に実現される」ものとしての基礎研究
「人類の英知を生み知の源泉となる基礎研究は、全ての研究開発活動の中で最も不確実性が高い
ものである。その多くは、当初のねらいどおりに成果が出るものではなく、地道で真摯な真理探求と試行錯誤の蓄積の上に実現されるものである。また、既存の知の枠組みとは異質な発見・発明こそが飛躍知につながるものであり、革新性を育む姿勢が重要である。」日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.11
 
b. 2種類の基礎研究 — 「研究者の自由な発想に基づく」基礎研究 vs 「政策に基づき将来の応用を目指す」基礎研究、すなわち、「非連続的なイノベーションの源泉となる知識の創出」を目指す基礎研究
「基礎研究には、人文・社会科学を含め、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ、意義を踏まえて推進する。すなわち、前者については、新しい知を生み続ける重厚な知的蓄積(多様性の苗床)を形成することを目指し、萌芽段階からの多様な研究や時流に流されない普遍的な知の探求を長期的視点の下で推進する。一方、後者については、次項以下に述べる政策課題対応型研究開発の一部と位置付けられるものであり、次項2.に基づく重点化を図りつつ、政策目標の達成に向け、経済・社会の変革につながる非連続的なイノベーションの源泉となる知識の創出を目指して進める。」日本政府(2006)『第3期 科学技術基本計画』p.11-12
 
 
 
 

(1) イノベーションの定義—発見や発明による新知識をもとにした革新としてのイノベーション
a.「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新」としてのイノベーション
「「科学技術イノベーション」とは、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新」と定義する。」日本政府(2011)『第4期 科学技術基本計画』p.7の注3
第3期では「社会的価値」と「経済的価値」となっていたのが、第4期では「知的・文化的価値」および「公共的価値」が付け加えられている。
 
(2) 基礎研究の位置づけ
a.「人類の新たな知的資産の創出、および、世界的課題克服の鍵であると同時に、イノベーションおよび安全で豊かな国民生活実現の基盤」としての基礎研究
「基礎研究の振興は、人類の新たな知の資産を創出するとともに、世界共通の課題を克服する鍵となる。また、基礎研究は、我が国の国力の源泉となる高い科学技術水準の維持、発展や、イノベーションによる新たな産業の創出や安全で豊かな国民生活を実現していくための基盤を成すものでもある。」日本政府(2011)『第4期 科学技術基本計画』p.30
 
b.「研究者の自由な発想に基づいて行われる」基礎研究が「イノベーションの源泉たるシーズを生み出すもの(多様性の苗床)」である
研究者の自由な発想に基づいて行われる基礎研究は、近年、イノベーションの源泉たるシーズを生み出すもの(多様性の苗床)として、また、広く新しい知的・文化的価値を創造し、直接的あるいは間接的に社会の発展に寄与するものとして、ますますその意義や重要性が高まっている。我が国の科学技術イノベーションの礎を確たるものとするためには、国として、独創的で多様な基礎研究を重視し、これを一層強力に推進していくことが不可欠であり、基礎研究の抜本的強化に向けた取組を進める。」日本政府(2011)『第4期 科学技術基本計画』p.30
 
c.「研究者の知的好奇心や探究心に根ざし、その自発性、独創性に基づいて行われるもの」としての基礎研究
「基礎研究は、研究者の知的好奇心や探究心に根ざし、その自発性、独創性に基づいて行われるものである。その成果は、人類共通の知的資産の創造や重厚な知の蓄積の形成につながり、ひいては我が国の豊かさや国力の源泉ともなるものである。」日本政府(2011)『第4期 科学技術基本計画』p.30
 
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「ダーウィンの海」論的イノベーション・モデル

修正「リニア・モデル」論としての「死の谷」論や「ダーウィンの海」論
基礎研究・発明と応用研究・イノベーションの間に大きなギャップが存在するとするVernon Ehlers(元アメリカの下院科学委員会副議長)による「死の谷」論や、それを修正して多数の研究・発明がイノベーション・新ビジネスにたどり着くために激しい競争をするということを強調したBranscombほか(2002)の「ダーウィンの海」論もリニア・モデル論的イノベーション把握を前提としている。
「死の谷」論や「ダーウィンの海」論は図示したように、基礎研究と発明をギャップの左側に置き、応用研究・イノベーションをギャップの右側においている点でBush(1945)の議論とは少し差異がある。Faulkner (1994)の議論も、科学と技術の相互作用的関係を強調している点ではBush(1945)の議論とは少し異なるが、科学的インプットや技術的インプットがイノベーションの源泉となっていることを強調している点ではリニア・モデル論の系譜に位置づけることができる。
 
図1 「死の谷」論に関するイメージ図 図2 「ダーウィンの海」論に関するイメージ図
Branscomb-2002-Between_Invention_and_Innovation-p36 Branscomb-2002-Between_Invention_and_Innovation-p37
 
[参考文献]
 
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イノベーションに関するニーズ主導説的見解とシーズ主導説的見解に関する基本的文献

イノベーションの主導要因に関する基本的対立構図は、market needsとする見解とtechnological seedsとする見解の対立である。

論争の基本的構図理解に関する基本的文献
  1. Freeman, C.(1979) “The Determinants of Innovation: Market demand, Technology, and the response to social problems,” Future, June 1979, pp.206-215
  2. Coombs,R., Saviotti, P., Walsh, V. (1987) Economics and technological change, Macmillan Education, pp.93-103[邦訳、R. クームズ, V. ウォルシュ, P. サビオッティ (竹内啓, 広松毅訳、1989)『技術革新の経済学』新世社、pp.107-119]
  3. Godin, B., Lane, P.(2013) “Pushes and Pulls: Hi(S)tory of Demand Pull Model of Innovation,” Science, Technology, & Human Values, 38(5), pp.621-654
 
 
demand-pull論に関わる基本的文献
Meyers, S., Marquis, D.G. (1969) Successful Industrial Innovation, National Science Foundation
5つの産業分野における567のイノベーションに関する事例研究に基づきdemand-pull説の正しさが証明されると主張
Scherer, F. M. (1982) “Demand-Pull and Technological Invention: Schmookler Revisted,” The Journal of Industrial Economics, 30 (3), pp. 225-237
 
demand-pullとtechnology-pushの協働説に関わる基本的文献
Mowery, D. and N. Rosenberg (1979): “The Influence of Market Demand Upon Innovation – A Critical Review of Some Recent Empirical Studies,” Research Policy, Vol. 8, No. 2, pp. 102-153.
Freeman, Christopher (1974) The Economics of Industrial Innovation , Penguin
Freeman, Christopher (2nd ed., 1982) The Economics of Industrial Innovation , Francis Pinter
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